診療報酬の改定は、増加する医療費を削減するため、または日本の医療を適正に持続させるために2年に1度行われます。
この診療報酬改定では、医療機器業界にとって影響の大きい特定保健医療材料という分野も改定されます。
今回は、次の方にとっておすすめの内容です。
特定保険医療材料を理解したい。
特定保険医療材料の価格改定の影響を知りたい。
病院から見た特定保険医療材料を知りたい。
特定保険医療材料は、医療機器販売に携わる企業の売上に大きく営業する医療材料です。
この局面を乗り越えるためにも知識を付けておきましょう!
まずは、日本の医療費の状況を知ろう。
日本の医療費は、高齢者の増加や新薬の登場、最新の医療機器、医療技術の高度化などによりますます増加する傾向にあります。
平成20年度(2008年度)頃の日本の医療費は、約34.8兆円でしたが、11年後の平成31年度(2019年度)には、約43.6兆円(過去最高)にまで増加しています。
日本の高齢者数は、この先の2040年頃まで増加することが予想されており、医療費もさらに増加する見込みです。
その反対に少子化の影響により、社会保障を支える現役世代は減少傾向にあります。
2040年頃には、高齢者1人を1.5人の現役世代が支えることになりそうです。
以上のことから国民に安心・安全の医療を届ける国民皆保険制度を維持するため、医療費の抑制は欠かすことのできない重要な取り組みになっています。
新型コロナウイルス感染症の影響で実際の医療現場でも、外来患者や手術数が激減したんだ。
治療材料を取り扱う医療機器メーカーは、大きな打撃を受けたけど、その反面、衛生材料や感染対策品を扱っているメーカーは、大きく売上を延ばしたよ。
医療機器ディーラーは、売上減少に陥ったものの、補助金などによる医療器の購入によって回復したところもあるみたいだよ。
特定保険医療材料を審議する機関! 中央社会保険医療協議会
特定保険医療材料について話し合いが行われる機関を中央社会保険医療協議会といいます。
中央社会保険医療協議会は、中医協と呼ばれ、診療報酬や薬価、特定保健医療材料などの診療報酬改定について、審議や意見を述べることができる厚生労働大臣の諮問機関です。
特定保険医療材料の適正価格の検討も、この中医協で行い、通常2年に1度改定が行われます。
基準材料価格(保険償還価格)は、病院が実際に購入している価格や外国の平均価格、医療材料の機能などを調査し、それを基準に審議され決定するんだ。
上記のメンバー以外に、専門事項の審議のための委員を10名以内でおくことができます。(専門委員)
医療費を支払う側と、診療報酬を得る側との間では、激しい議論が交わされるんだ。
公益委員は、中立な立場であいだを取り持っている感じだね。
改定のたびに価格交渉!診療報酬改定と特定保険医療材料
先ほどもお伝えしたとおり、診療報酬の改定は、通常2年に一度行われ、特定保険医療材料の価格(基準材料価格)も改定されます。
この改定は、医療材料価格の適正化を目的に実施されますが、医療機器の企業の立場から見ると、商品価値を強制的に引き下げられる感覚です。
このことにより多くの医療機器関係の企業は、売上・利益減少につながります。
そして、特定保険医療材料に関わるすべての病院と企業は、価格交渉という業務に追われることになります。
基準材料価格の引き下げ!病院の収益にも影響
診療報酬改定によって、基準材料価格が引き下げになるということは、保険償還によって病院に返ってくる金額が減るということになります。
どういうことでしょうか?
詳しく説明していきましょう。
病院などの医療機関で使われる医療材料の中に、 特定保険医療材料と呼ばれるものがあります。
この特定保険医療材料には、厚生労働省大臣によって定められた基準材料価格が設定されています。
たとえば、 食道用ステント(特定保険医療材料) に該当する商品は、 ¥127,000(基準材料価格)に設定されています。
基準材料価格は、保険で償還される価格ということで、病院からは保険償還価格と呼ばれています。
病院の収益が下がる仕組みをかんたんに説明します。
保険償還価格(基準材料価格)が1,000円の医療材料を、800円で購入していたとします。
医療材料費の1,000円は、患者請求と保険請求によって償還(払い戻し)されます。
請求によってかえってきた1,000円と、仕入れ800円との差額、200円が病院の収益となります。
これが、特定保険医療材料の改定により保険償還価格が900円となった場合。
医療材料の仕入れが800円のままで購入すれば、病院収益は、以前と比べ100円のマイナスとなります。
保険償還価格 | 購入価格 | 収益 | 改定前利益比 | |
改定前 | ¥1,000 | ¥800 | ¥200 | |
改訂後 | ¥900 | ¥800 | ¥100 | ¥-100 |
これでは病院の収益が減ることになります。
そのため病院は、仕入れ先である医療機器ディーラーへ価格の引き下げ交渉を行います。
その際、下記のような掛け率スライド交渉が一般的に行われます。
この病院からの交渉を受け入れた場合、医療機器ディーラーは、改定前よりも80円マイナスで販売しなければなりません。
利益幅の少ない医療器ディーラーにとっては、大きなダメージとなります。
基準材料価格の引き下げ! 医療機器ディーラーへの影響
医療機器ディーラーは、病院側からの交渉を受け、値引き対応を迫られます。
病院から価格交渉を迫られますが、医療機器ディーラーは、製品ごとの利益率が低いため、その価格交渉を自社で対応することができません。
そのため医療器ディーラーは、仕入れ先である医療機器メーカーへ価格の交渉を行います。
病院からの交渉と同じ、掛け率スライドで交渉を行うことが多いでしょう。
仕入れ先の医療機器メーカーと交渉するときは、つぎの2点に注意が必要です。
在庫の問題
医療機器メーカーとの価格交渉が決着したとしても、在庫の問題が残ります。
在庫の問題とは、改定前に購入した在庫商品は、交渉前の価格で仕入れした商品になります。
つまり、交渉前に仕入れた材料を、交渉後の価格で販売すると利益の減少または、赤字販売となります。
医療機器ディーラーは、改定前に仕入れた在庫も価格交渉する必要があります。
ただし、建値制や後値引き制を行っているメーカーは、基本的に在庫の価格交渉は必要ないことが多いよ。
売上の実績に対して値引きを行うため、改訂前の仕入れでも値引き額で調整できるからね。
基準材料価格の引き下げ! 医療機器メーカーの影響
医療機器メーカーは、医療機器ディーラーより価格の交渉を受けます。
20年ほど前から2年に1度の頻度で、交渉が繰り返され、年々その対応は厳しい状況にあります。
医療機器メーカーの問題として、医療機器の原価(製造コスト)や仕入価格などがあります。
原材料費や輸送費が高騰している中、販売価格の引き下げの二重苦が存在します。
しかも、価格の値引きに対応したとしても、今度はその引き下げた価格が、新たな市場価格となり、
2年後の改定時の指標とされ、さらに基準材料価格が下がるという、悪循環が生まれています。
その結果として、近年、価格の値下げに対応出来ない商品や、その商品の扱いそのものをやめるという選択をせざるおえないメーカーも出始めています。
医療器ディーラーとの交渉
医療機器ディーラーの交渉を受けると、単純に売上・利益の減少になります。
なるべく「値段を下げない」戦略をとりますが、他社への切り替えられる恐れもあるため、下げざる終えない状況になることが多いです。
そのため医療機器ディーラーには、単に仕入れ価格を下げるのではなく、次のような要求も必要になります。
まとめ買い要求・・・送料削減、在庫管理料削減、キャッシュフロー改善。
新規採用要求・・・まだ採用のされていない商品の販売協力。
現物支給・・・価格値引きではなく、現物による価格保障。
リベートプラン・・・基準となる売上目標を達成した場合に、値引きするプラン。
まとめ
今回は、医療機器企業の視点をもって、2年に1度の特定保険医療材料改正についてお話しました。
日本の医療費は、 高齢者の増加や新薬、最新の医療機器、医療技術の高度化などにより、年々増加する傾向にあり、医療機器業界にとっても売上が増加する見込みがありますが、もう一方では、医療費削減のもと、材料価格の改正が執り行われています。
この仕組みは、売上に直結し、営業にとってとても重要な知識です。
必ず理解しておきましょう。
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